密星-mitsuboshi-


マス屋は 創作和風居酒屋で
夜は居酒屋を営業しているが昼はランチを出している
刺身定食や日替わりランチが美味しいと人気があり
早紀の会社の写真はもちろんのこと
周辺の会社のサラリーマンにも男女問わず大人気である

もちろん本業の夜の居酒屋営業もお客の入りはとても多い

早紀と美加は昼も夜も常連客になっている

「いらっしゃいませー!」

店内に入るとすぐに威勢のいい声で出迎えられた
声の主はマス屋の店主
カウンター席の中にある調理場からニコニコ笑っていた

開店してからさほど時間がたっていないというのに、テーブル席は半分近く埋まっていた

「ここにしよう!」

いつも2人でくる時は2人席かカウンター席に座るが
美加が選んだのは4人席だった

「あれ、もしかして他に誰か来るの?」

「あぁ、うん!林田も呼んだー!」

早紀はさっき自販機の前で林田と話したことを思い出した

「林田さん、まだ少し残業ってさっき会った時は言ってたけど…」

「そーなの? さっきメールしたら行くっ
 て一言返ってきたから、きっと早々に
 終わらせてくるでしょ♪」

美加はそう言いながら、今日のオススメが書かれたお品書きを楽しそうに眺めている

そこへ

「美加ちゃん早紀ちゃんいらっしゃい!
 何飲む?」

先ほど笑顔で迎えてくれた店主が
おしぼりとお通しを持ってやってきた

見かけは坊主で大柄で怖そうな風貌だが
笑うと可愛く人懐っこい愛されキャラだ

「とりあえず生ビール2つ♪」

美加はお通しをテーブルに並べながら答えた

「了解!
 あとこれ…サービスっ。内緒な☆」

店主は小声でそういうと小皿をテーブルの中央に置いた

「あっ♪
マスターの特製ダシ巻き玉子!」

美加の目が輝いた

「今日のランチのあまりだけど、
 良かったら食べて」

そう言うと2人に向かって片目をパチッと閉じてカウンターの中に戻っていった

ほどなくしてキンキンに冷えた中ジョッキに入った生ビールが運ばれてきた

「かんぱ~い!」
「お疲れさま~!」

ジョッキの縁を合わせて一気に飲み干す

「あぁー…美味しいー…」

早紀は空になったジョッキを置いて
大きく息をついた

「なぁに~そんな一気で飲んじゃって~
 もしかして今日ずっとあの謎の質問考えてたりしたの?」

地味に当たっているその指摘に動揺する早紀

「まぁ確かにあれは考えるよね(笑)
 “好きなの?”の後の“俺も”って何だろ
 “俺も”、“好きなの?”……うーん」

美加がダシ巻き玉子を頬張りながら首をかしげた
何気なく聞いていた美加の言葉を
早紀は心の中でつぶやいてみた

“好きなの?” “俺も”
“俺も” “好きなの?”
“俺も好き”…

何かを自分も好き…

…!

「あ?もしかして…」

早紀は思い至ったことを確かめるため
バッグからスマホを取り出し画面を開いた

「このことかも。これ見て」

早紀は開いた画面を美加の顔の前に出した
美加が、出されたスマホを受け取ろうとした瞬間
早紀の持つスマホが横にスッと消え、同時に

「なに見てんの?
 …おっ!水歌じゃん!」

聞き慣れた声が弾んだ

見ると、テーブルの横に立ち、
片手で取り上げたスマホの画面を読む見慣れた顔

林田が立っていた


< 9 / 70 >

この作品をシェア

pagetop