プリテンダー
恋の修羅場は突然に


会社を出て、杏さんと僕は矢野さんの案内でこぢんまりとした小料理屋に足を運んだ。

テーブル席に着くと、矢野さんがおすすめの料理と日本酒を注文した。

「ここ、珍しい日本酒置いてるんだよ。この辺じゃあんまり置いてない地酒があるんだ。」

「へぇ…。それは是非飲んでみないと。」

僕と矢野さんがそんな話をしている間、杏さんはお品書きをじっと眺めていた。

「杏さん、何か欲しいものでもありますか?」

「うーん…よくわからんが枝豆。」

よくわからんって、何がわからないんだろう?

と言うか当たり前だけど、杏さんもやっぱりカロリーバー以外の物を食べるんだな。

矢野さんは女将さんに枝豆を追加注文した。

「枝豆が好きなんですか?」

「好きと言うか…。自分のペースでチビチビ食べられるのがいい。」

「はぁ…そうなんですか。」

いまいちよくわからない杏さんの見解に、僕は思わず首をかしげた。



それから3人で、美味しい料理を食べながら日本酒を飲んだ。

杏さんは最初に言っていた通り、枝豆を食べながらお酒を飲んでいる。

他にも美味しい料理がたくさんあるのに。

「杏さん、これ食べますか?すごく美味しいですよ。」

僕が根菜の煮物を差し出すと、杏さんは少し首をかしげた。

「うーん…じゃあ少しだけ。」

取り皿にほんの少しの煮物を取って、杏さんはそれをチビチビと口に運ぶ。

…杏さんって偏食家なのか、それとも少食なのかな?

何を食べてもあまり美味しくなさそうに見えるのはどうしてだろう?




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