痛くて愛しくて、抱きしめたい

「はーい、今日はここまで」


授業終了のチャイムが鳴った。

教科書を閉じる音があちこちから響く中、タイショーは扉の方へ歩き出す。

わたしの席は、最前列の廊下側。なので扉を出るときは必然的に、わたしの前を通ることになる。

近づいてくるタイショーの気配を感じながら、わたしは下を向いて教科書を片づけた。
さっき変なところを見せてしまったから、恥ずかしくて顔が見られなくて。

そして、視界のはしに2本の足が映った、そのとき。


「何やってんだよ、アホ」


‥‥‥周囲に聞こえないほど小さな、あきれた声が降ってきた。

思わず顔を上げると、タイショーが丸めたプリントの束で、わたしの頭をポンとやさしく叩いた。


唇の端にかすかに浮かぶ笑み。
わたしがよく覚えている、ちょっと意地悪なタイショーの顔。


「‥‥‥っ」


キュウッと胸が詰まって、顔が熱くなった。


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