痛くて愛しくて、抱きしめたい

道路に飛び出したわたしの目に、赤い丸が映る。

次の瞬間、右の視界がまぶしすぎる光に覆われて。


真っ白いだけの世界に、わたしは吸い込まれていった。








20日間、だった。わたしが次に目覚めるまでに、要した時間は。


長い昏睡状態から起きたわたしを、医師や看護師が代わる代わる診にやって来た。

お父さんとお母さんは、意識が戻ったことに泣きながら喜び、その後ろで姉が静かに涙を流していた。


20日ぶりの、わたしの世界。そこにはもう、タイショーはいなかった。

姉とタイショーは、別れたのだ。

だれも彼の話題には触れなかったけど、ふたりの関係が終わったことは、容易にわかった。

姉との関係が終わったということは、私との関係もなくなるということ。


そしてわたしと姉は、よそよそしい関係になってしまった。姉の気持ちを考えたら、当然のことだ。


少しずつ体調が回復してくると、やけに頭が冴えて、あの日のことを思い出すようになった。

いったいわたしは、なんてバカな人間なんだろう。
タイショーにとっては最初から最後まで、必要性すらなかった脇役じゃん。

そう思うと、あまりになさけなくて笑えた。

白雪姫は王子様のキスで目を覚ましたのに、わたしときたら、タイショーとのキスで20日も眠ってしまうなんて。

ほんと、バカすぎて、いやになる。


「‥‥ッ‥」

ひとりきりの病室で、わたしは声を押し殺して泣いた。

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