痛くて愛しくて、抱きしめたい


中庭に降りて来た彼は、プリントを受け取るとホッとしたように白い八重歯を見せた。

あぁ、タイショーだ‥‥‥
タイショーの笑顔だ。


「拾ってくれて助かったよ。サンキュー」


少し、声が変わった気がする。教室では気づかなかったけど。
背は、わたしも伸びたから差が縮まってるはず。
だけど昔より大きく見えるのは、体つきが変わったんだろう。

至近距離で彼を見ながら、一瞬でそんなことを考えた。


「ビックリしたよ」


わたしはなるべく平静な声で言った。


「タイショーがほんとに教師になってるなんて」

「まだ実習だけどな」

「てか、教室であたしに気づいてたんでしょ? 言ってよ」

「お前こそ今日の朝、駅で会ったの気づかなかったのか?」

「え?」

「俺も同じ電車に乗ってたんだよ」

「‥‥‥そうなんだ」

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