リナリア
* * *

 小道具も色々と使いながら1時間ほどで撮影を終える。

「よし!いいんじゃないですかね。」
「いいの、撮れた?」
「気に入るのがなかったら、空いてる時間を呼び出してください。伺います。」
「名桜だって忙しいくせに。」
「多分ゴールデンウィークが終わったら落ち着くはずです。」
「どうかなぁ。」
「お疲れ様でした。片付けちゃいますね。」
「あ、手伝います。知春さんは着替え済ませてください。」
「うん。」

 一度だけ名桜と安田を見てから、知春は控室に入った。

(…わかりやす…っていうか、あれで向こうも名桜もわかってなかったりするわけ?)

 * * *

 その夜。ベッドにダイブした名桜のスマートフォンが震えた。画像が送信されてきたようである。相手は知春。

「な…にこれ…。」

 寝顔だ。口元がタレで汚れている。ひどすぎる。こんな顔を他人に晒して寝ていた、なんて。

『仕返し』

 送られてきた単語。気が付けば名桜は通話のアイコンをタップしていた。送信されたばかりとあって、知春はすぐに出た。

「もしもし?」
「な…なんですかあれ!」
「何って、残したい一瞬でしょ、あれ。なかなかよく撮れてない?」
「そういう問題じゃない!」
「いいじゃん、名桜はいつも撮ってるじゃん。」
「それは仕事で…!」
「仕事じゃなくても俺のこと撮ったでしょ。だから仕返しでありお返し。」
「消してくださいね。端末から。」
「えー。」
「もし間違ってケータイ落とした時、私の顔が残ってたらそれこそスキャンダルです。」
「考えすぎだけど…わかった。じゃあラインのアルバムにあげ直しておく。」
「そんなことしなくて大丈夫です!」
「ケータイに残せないなら、ここに残しておくしかないじゃん。残したい一瞬なんだから。」

 きっと、このひとは言ったことは曲げないひとなのだ。
 そんなことを思って、名桜は諦めることにする。

「…わかりました。悪用しないでください。」
「しないよ。しないでね?」
「しないですって!早く寝てください。」
「それは名桜の方がでしょ。」
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