リナリア
「最近は一緒の仕事にならないの?」
「…ならない、かな。私もスタジオに行かずにいろんなとこ飛び回ってるし。」

 写真の依頼がなくなることがなくなった。それは今年になって起こったことだった。今まで仕事でこんなに忙しくなったことはない。そもそも父のアシスタントとして撮ることはあっても、指名されて仕事を受けることがそれほどなかった。しかし、今は違う。『麻倉名桜』に対しての仕事がどんどん入ってくる。

「…伊月知春のすごさを、身をもって感じてるよ。」
「モデルだけがすげーんじゃねーだろ。その良さを出したのは名桜なんだから。」
「…ありがと、蒼。」

 幼馴染の七海と蒼はいつだって名桜のことを心配してくれている。特に最近は『やたらと伊月知春に絡まれる』というのと、『多忙』についてだ。

「今日も仕事か?」
「うん。今日はスタジオだから近いし、大丈夫。」
「あんま無理すんじゃねーぞ。」
「わかってるよ。」

 担任が教室に入ってきた。1日は長い。特に体調が悪い時は。

(…雨もひどいし…朝だけじゃなくてちゃんと昼も薬飲まなきゃ…。)

 梅雨の雨は降り方で雰囲気ががらりと変わる。今日の雨はあまり撮影には向かない。撮影するならもっとしとしとと降る雨の中がいい。そんなことをぼんやりと思いながら、名桜は窓を眺めた。
< 42 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop