リナリア
* * *

(はい出た~知春の天然たらし…。)

 椋花の顔がほんのりと赤く染まる。無自覚に向けられる優しさが、時に残酷に見えるのは自分が椋花を知春よりよく見ているからに過ぎない。他人のことには敏いはずなのに、自分に向けられる感情にはとても鈍い。どうしてこうなった。
 花火会場に向かう道すがら、観察していればすぐにわかる。ここにある想いが2名を除いて一方通行であることに。

(幼馴染くんは名桜ちゃんかぁ~。で、幼馴染ちゃんの方は幼馴染くんね。んで椋花は知春で、俺は…。)

 自分が褒めるよりも、知春の何気ない言葉で頬を染める椋花を知っている。だからこそ、軽いテンションで褒めた。可愛い、似合ってるよ、と。それは紛れもなく本心ではあるが、真面目なトーンで言っていいことではない。少なくとも自分は。
 そして問題は、想いの先にいる2人だ。

(君たちだけ、矢印が見えないんですけど。)

 ビジネスだけの関係、にはもはや見えなかった。ビジネスだけの関係なら、おそらく知春はあれほど名桜に対して興味をもつことはなかっただろう。お互いに対してリスペクトの意は見える。だがきっと、それだけではない。恋愛感情らしきものが見えないから、その二人の想いが恋愛と決めつけることはできないけれど。

「知春!」
「んー?」
「お前、元気ないの、治ったの?」
「元気なくないよ?」
「俺の観察力なめんなよ。」
「…もう大丈夫。心配かけてごめん。」
「心配って勝手にするもんだからいいんだよ。」

 知春がこういう人だと知っている。だから今も、動けないでいる。
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