リナリア
 花火会場まで来て、七海が持ってきたレジャーシートを敷いた。

「じゃあ名桜ちゃんと俺が買い出しに行こうかね。」
「…なんで名桜なの。」
「え?名桜ちゃん、気が利くから。」
「それは否定しないけど、買い出しなら俺が行くよ。」
「知春が万が一バレたら帰らないといけなくなるだろ?ここで大人しくしてて。名桜ちゃん、行こう。」
「別にいいですけど、皆さん何が食べたいですか?七海も蒼も言って。」

 おそらくこれは、『まだ話足りない』ということなのだろう。みんなの前ではしたくなくて、でも今したい話がきっとある。面倒ではあるが変なタイミングで言われても困るので、名桜は拓実に従うことにした。

「じゃ、行ってきます。」
「ごめんね、名桜。」
「知春さんが謝ることじゃないですよ。行きましょう?」

 知春は遠ざかっていく二人の背中を見つめた。少しだけ拓実を睨む。もちろん拓実は気付かない。

「心配?」

 知春を見かねて声を掛けたのは椋花だった。

「…心配っていうか、名桜の手にあんまり重いもの持たせたくない。」
「カメラも重いんじゃないの?」
「たまには重いの使ってるけど、名桜はそんな重いの、普段は使ってないよ。」
「カメラ、持たせてもらったの?」
「うん。シャッターは切ってないけどね。」
「…気に入ってるんだね、あの子のこと。」
「まぁ、好きだよ。ちょっと仕事しにくいときもあるけど、嘘がなくて、真面目で、いい仕事ができる。信念があるしね。」
「…そう、なんだ。」

 好きだ。仕事を一緒にする相手として、偽りなく話せる人として。
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