アシスタント!!
「直見さん」


なんとなく察した木下が、


「お知り合いですか?」


「ええ、ちょっと」


巧堅持(タクミ ケンジ)は、直見がプロを目指して持ち込み投稿を


していた高校生当時、中学生で同じ投稿者として、たまに出版社で

顔を合わせていた同志のような存在だった。


携帯があるわけでもなく、あったとしても連絡を取るほどの関係でもなく、


出版社で会ううちに何となく気が合い、気になる漫画やテレビの


話題をするのがささやかな楽しみでもあった程度だった。


20年近く会っていないが、面影は残っている。


短髪で背も高く、なかなかの好青年でスーツも様になっていた。


「どうしたの?」


「一昨年、別の会社退職して、出版社に拾ってもらったんです。

新しく配属した編集部のピンチヒッターで。別の先生の原稿の引き取りに」


やはり挫折したらしい。


「この出版社にいたの?知らなかった」


「直見さんが那住先生のアシスタントなのは、編集部では有名ですけどね」


「有名って…」


「切れ者だって、絶賛ですよ。あの那住先生を手懐けたって」


本人が聞いているかもしれないのに。空気が読めず、ひやひやする。


「僕は別の担当してるんで、回れませんでしたけど、

隣町に引っ越してきた先生の担当になったんで、こちらも任されまして。ご挨拶に」


部屋に入ると、


「今日はご挨拶だけで、すぐ引き上げますので」


「話は聞いてます」


奥に座ったまま顔だけ向け、那住がじろりと頭の上から足元まで一瞥すると、


「まあ、まだ次まで時間はありますんで」


茅島は学校の都合で欠勤らしい。

仕事が始まると、そのうちいつものやり取りが始まる。


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