人魚になんて、なれない
Last Day
昨日の約束どおり、波音と海音は学校から程近い海に来ていた。


海水浴場ではなく、テトラポットが並ぶただの海岸線だが、波音と海音にとって久しぶりに訪れた海には違いなかった。


「なあ、菊池」


「なんですか先生」


「どうして、海に来ようと思ったんだ?」


海を左に見ながら、あてもなく歩く二人。


じんわりと額ににじむ汗をぬぐいつつ、海音は波音にたずねる。


「海に来たかったからですよ」


当然だろうと返された答えは、正解だったが海音の求めていた答えではなかった。


そりゃそうだろうけど、と困惑気味の海音に対し、波音は冗談ですよ、と笑う。


「冗談というか、海に来たかったのは本当なんですけど。先生と一緒なら、海に惹かれずにすむんじゃないかって。今まで、こんな話誰にもしたことがなかったから。先生なら、あたしを止めてくれるでしょう?」


本当は、ずっと海に来たかったんだと波音は言う。


今日も快晴で、海はまぶしいほどに光っていた。


学校のプールもそれは綺麗に輝いていたが、海のうつくしさには到底及ばないのだと、久しぶりに来て思った。


「海に入りたいか?」


目を細めながら海面を見る波音に、海音は再びたずねる。


「……いいえ」
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