生ぬるい海の中で生ぬるい君と生ぬるい物語を
君と2
またもや驚かされてしまった。
お礼より先に名前を聞かれるとは、予想出来るはずもない。

実際、俺には名前が無い。
そして俺を見て驚かなかったのは彼女が初めてだった。

彼女の瞳を見ながら考えた。
ここで名前を言っておいた方が
彼女の印象に残るのではないかと。

印象に残させてどうするんだと
冷静に見つめる自分ほどどうでもいい物はない。

久しぶりの話し相手だ。

無い名前を取り繕って答えるくらい許されるだろう。


さんざん考えた挙句、彼女に吐いた名前は


〖桜〗


『桜、さん?』
「はい。桜です。」


何たる女々しい名前であろう。
女々しいのは名前だけではない。
この名前の由来ほど女々しいものはないと
内心自分に呆れる。

“桜は1年に1度必ず咲く。
桜の季節になったらまた俺を思い出すように”

なんてどこぞの恋愛小説家が考えるのであろうか。

一方の彼女は何の疑いもなく

『素敵な名前ですね。』
と微笑む。

長く陸にいるせいか、それともこの夏の日差しのせいか

「貴女の笑顔、とても素敵です。そして愛らしい。」

などと胸焼けするような発言をしてしまった。

暑い夏の日差しに、
更に一層眩しくなったあなたの笑顔に免じて先ほどの失言は許そう


更に脈が早くなったことにも気付かないくらい
本当に貴女の笑顔は眩しかった。
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