Four you ~2+2=4=2×2~
第3章~回る世界で~

第9話~クリスタル~

そんな先生からせっかく貰った「クリスタル」を読みたいという気持ちは、やはり抑えられなかった。今までかなりの読書をしたというのに、存在すら知らなかった本…一体どんな本なのか、先生は何故私に勧めたのか、そして「参考になる」とはどういうことか…。これだけあれば、ページを開く原動力には十分だった。

「クリスタル」。それは、人の心が見える女性の物語。

遠山澄玲(トオヤマ・スミレ)には、以前から手にしていたある能力があった。それは、「他人の考えていることを口に出せる」というもの。一見するととてつもなく便利そうな能力に見えるが、実はこの能力、澄玲自身にも制御できず、いつその能力が発動してしまうのか、自分でも分からないのだ。おまけに、読み取った他人の思考を口に出さずにはいられないので、読まれているということが相手方にも分かってしまうという、なかなかの諸刃の剣でもあった。

その能力に目覚めたのは十五歳の時、その日は中学校の体育祭だった。

リレーをしていると、澄玲の左側を走っていた鷺沢開司(サギサワ・カイジ)が足を澄玲の足に引っ掛け、澄玲を転ばせるという出来事が起こった。そこまでなら何のことはない、ちょっとしたアクシデントだったのだが、問題はそこから。転んだ澄玲は、開司の方をまっすぐ見ながら、こう言ったのだ。

「『ヤバっ、転ばせた…』」

その声は開司の耳にも届いており、リレーが終わった後、何故分かったのかと澄玲に問いかけた。

そして…澄玲には、人の心を口に出せるという能力があるということが判明した。

原因は不明、両親にはその能力がないことから、それは澄玲だけの特別な才能であることが証明された。しかし澄玲の両親は、そんな能力に目覚めた澄玲を気味悪がり、澄玲を一人家に残し、家を出たのだった。

それから十年後。警察官になった澄玲は、その国家機密級の能力を警察上層部に買われ、未解決事件を捜査する部署に所属していた。能力を使い、今も街にいる犯人の心を読み取って逮捕に繋げるというのが澄玲の役割だった。

そんな中、澄玲はある未解決事件を捜査することとなる。
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