Four you ~2+2=4=2×2~
「『…俺があの時話しかけてなかったら、遠山は能力に気づくことがなかったかもしれない。そうじゃなくても、まだあと少し、両親といられたかもしれない…なのに何だよ! 何であんなタイミングで聞こえたんだよ! バカか!? お前はバカなのか、開司! …それだけじゃない。罪滅ぼしのために手っ取り早く金が集まる詐欺を始めたのに、それをあろうことか遠山に見つけられるなんてどんなザマだよ? 家賃詐欺師が聞いてあきれるぜ、全く…。…こんなことなら、俺にその能力があった方がよかっただろ…!』」

自分の心を聞かされた開司は、顔を上げないまま、こう言った。

「…分かってるなら話は早い。俺はそのことを伝えに来たんだ。ご両親と引き離してしまった俺だ、もう一度会わせる義務が俺にはある。そのためには金が必要だ。だから頭をフル回転させて、手っ取り早く儲かる方法を考えた。そうして思いついたのがこれだ。歩いている人のポケットからハンカチを抜き取り、GPSを取りつける。そしてそれを渡して、その人が住んでいる所を突き止める。その後は大家の情報を入手し、家賃を取り立てる少し前に偽の請求書を送り、大家には罰金を要求する。…我ながらよく考えたもんだ」

そしてもう一度、開司の目はまっすぐに澄玲を映した。

「巷で噂の家賃詐欺師を逮捕したんだ、ご両親も顔くらいなら見せに来てくれるだろ。な、刑事さん」

…そのセリフで、この物語は幕を閉じている。

読んでみたけれど、先生が私にこの本を勧めた理由は、やっぱりあまり分からなかった。何と言えばいいんだろうか、この物語と私の小説は、どこか相容れないものがあるような気がしてならなかった。

この物語に描かれている、人間の自己犠牲。今まで考えもしなかったし、そもそも私の小説に、自己犠牲は合わない。作者だからそこまで不自然ではないだろうが、私は勝手ながら、そう感じてしまっていたのだ。

…しかし、事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、先生の言葉が間違いじゃなかったということを、私はすぐに思い知らされることとなる。
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