押しかけ社員になります!

「この前まで、暫く会っていなかったのだけれど、…どんなに会っていなくても、吉城の顔を見たら解ったわ。好きな人が出来たのだって。具合が悪くなった時、しばらく居てくれたの。
その時、少し聞いたのよ?好きな人は居ないのかって。
あの頃の顔とはまた随分違って来たわね。貴女に益々夢中なのね?いい顔をしているもの…」

何だか…どうしたらいいのだろう。何を話したら…。

「あの…、お体の調子はもうよろしいのですか?」

「ええ、大丈夫よ。有難う、心配無いわ。年齢なりに、色々と不具合も出て来ちゃうから。
見て。
吉城、もう散歩から帰って来たようよ。フフフ。早い散歩だこと。貴女が心配で、散歩どころじゃ無いのでしょ」

あ、菊次郎って…グレイハウンドだったんだ。部長と並んでると絵になるなぁ。広い庭に面した、天井まである大きな窓越しに軽く駆けて来る部長を愛でた。…見惚れてる時では無いか。

「これから先、色々あると思うのよ?
吉城は会社の事は話したかしら」

「少しだけ伺いました。まだ具体的にはと言いますか、知らない事の方が多いと思います」

「そう。親バカだと思って聞いてちょうだいね。
何があってもあの子はきっと貴女を守るわ。大丈夫よ。…もう、いい歳のおじさんなんだもの。モノの見方、判断は充分出来ると思うのよ。
私に取ってはいつまでも子供なんだけれどね。大丈夫、根は強い子だから」

「はい。私も強くなります」

頷いた。私も、…何があっても強くいないといけない。

「吉城には貴女が居る。もうこれで安心だわ。吉城の事は貴女に全てお願いするわね」

「えー、まだそんな…」

無理です。

「フフフ。そこは任せてくださいでいいのよ?正直ね。結婚する…その覚悟が出来たら、また来てちょうだいね」

ズシッと重い言葉。……覚悟…。これが一番確かめたかった言葉だろう。


「お~い。もういいか?」

「はいはい。お茶、入れ直しましょうね。今日はお手伝いさんお休みだから、沢山動かなくちゃ。よいしょ」

「私も手伝います」

「有難う。和夏さんが持って来てくれたお菓子食べましょ?私、大好きよ?」

「…良かったです」

何だ…仲良くなってるじゃないか。ふぅ。
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