押しかけ社員になります!

月曜の夜も、火曜の夜も、部長からの連絡は無かった。
ただそれだけの事。

アドレスも番号も知らなきゃ良かった。
受動的に知ってしまったとはいえ、知らなければ、メールも電話も来ない、なんて沈まずに済むんだもの…。


水曜の朝。

「あ、西野さん。おはようございます」

「おはよう」

部長、来てるかな。お弁当の袋を置いた。

「…西野さん。不確かな噂が流れています」

あ、まあ、噂とは不確かなものだ。こういうモノに飛び付いて、噂が噂をより誇大に広めていくんだ。自分の感覚で表現も変化させて行く。噂とは無責任なモノだ。

「え、どんな?」

噂話は嫌いだ。別に知りたいとは思わないけど。興味なさ気に問い返した。

「部長がお見合いしたって」

…、え。

「そう…へぇ、そうなんだ…」

嘘…。…噂よ噂。

「あ、部長、来ましたよ」

…。

「あ、さあ、仕事しましょ」

「は~い」

…西野って、呼ばれるかしら。それともメールでも来るかしら。女子社員がお見合い話の噂をしてるなんて、部長の耳に届くかも知れない。
根拠の無い事だ、くだらないと、始めから何も言って来るつもりは無いのだろうか。私が噂なんかに動揺するはずなんて無いって。不安になる必要は無いって。
…そう思っていればいいんだ、私だって。


「お昼、行きましょう」

「はい」

結局、午前中は呼ばれる事も無かった。視線を感じる事も無かった。携帯を見てみたが、何も無かった。

普通に、いつも通りだ。
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