モテ系同期と偽装恋愛!?

先に目を逸らしたのは私で、慌てて椅子に座り直し、ノートパソコンの陰に隠れた。

それから一拍置いて、恐る恐る物陰から覗き見ると、彼はもうこっちを向いていなかった。

なにかの書類を手に、斜め後ろの席の男性社員と仕事の話をしているみたい。

ホッと胸を撫で下ろしつつも、机の上のコンパクトミラーと大好物のチョコパンに困っていた。

どういうつもりでくれたのか知らないけれど、お礼を言ったほうがいいよね……。

直接声をかけるのには、色々と問題がある。

付箋には『特別にあげる』と書かれていたから、他の女子社員のお土産は唐辛子チョコだけで、コンパクトミラーはないのだろう。

私だけ特別扱いされたことを知られたら、横山くんを狙っている女子達に嫌われそうだ。

椅子の座面に隠すように置いてあったということは、横山くんだってこのことを周囲に知られたくないはず。

それと、やはり男性の中でも特に横山くんが苦手な私としては、できるだけ接近したくないわけで……。

考えた結果、メールでお礼を伝えることにした。

私的なアドレスは知らないので、社用のアドレスに宛てて【ありがとうございます】とひと言だけのメールを送信する。

コンパクトミラーの布の色合いや象のシルエットに可愛らしさを感じたことや、差し入れてくれたパンは大好物で、密かに嬉しく思ったことは書かない。

私は高飛車女なのに、喜んでいると思われては困るから。

チラリと再び横山くんの席を覗き見ると、後ろの社員との会話を終えて、今は机に真っすぐに向かっていた。

そのうちメールチェックするだろうと思い、送信欄を閉じようとしたら、もう早、彼から返信がきた。


【それだけ? 普通、他に言うべき言葉があるよね。わ~可愛いとか、嬉しいとか、遼介くん大好き! とか】


私が絶対に言わない言葉が並んだメールを見て、そういうことかと納得した。

どういう風の吹き回しだろうと思ったが、彼は私をからかいたかっただけのようだ。

これもいつもの意地悪な絡み方の、延長線にあることなのだろう。

小さな溜息をついて【からかわないで】と返事をする。

すぐに戻ってきたメールには【可愛くない姫だな】と意地悪な言葉が綴られていた。

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