モテ系同期と偽装恋愛!?
辞令書が張り出されるまでは、一応他言してはならないことになっているので、聞き耳を立てに行くわけにもいかず、皆んな遠巻きに注目しているだけ。
数分して人事部長ともうひとりが出て来て、すぐにうちの部署から出て行った。
不安な面持ちでミーティング室を見つめる。
遼介くん、どこへの移動を命じられたのだろう……。
離れてしまうとしても、せめて彼の希望に沿った部署だといいけれど……。
正式に発表になるまで聞いてはいけないと分かっていても、気になって仕方ない。
周囲を気にしつつミーティング室に入ると、光の差し込む窓辺を向いて立ち尽くす、彼の背中が見えた。
「遼介くん……」
振り向いた彼は困り顔。
明らかに希望に沿う移動ではなかったのが、見て取れる。
もしかしたら、国内出張さえもない部署なのだろうか……。
総務や経理、システム管理部とか……。
いつもの彼は私に不安を与えないよう、無理にでも笑顔を作る人。
しかし今はそれができないようで、顔をしかめて低い声で言った。
「移動というか……ニューデリーで支店を立ち上げてくれと言われた。インド東南アジア地域の仕入拠点を作るそうだよ」
それって……。
海外に支店がないことが、問題視されているのは知っていた。
仕入のたびに本社から現地に価格交渉に向かわせるのは、出張経費がかさんでしまう。
新たな取引先が増え、うちの部署以外の事業部でも、仕入先に拠点が欲しいという声が出ているそうだ。