モテ系同期と偽装恋愛!?

首を傾げる私に桃ちゃんは教えてくれる。


「総務の子は、今回の出張前に別れたって」

「え、もう早?」


少々驚いてしまったのは、前カノと別れた一週間後に総務の子と付き合い出したと噂で聞いたのが、ひと月ほど前のことだったから。


「まぁ、遼介だもん。いつものことでしょ。寂しいと言われたら即お別れ。で、すぐに新しい女ができると」


桃ちゃんに呆れているふうはなく、ただ事実を口にしただけといった感じ。

それから苦笑いして「人間的にはいい奴なんだけどね。遊び人と評価されても仕方ないかも」と付け足していた。

うちの会社、マスコ化成株式会社は化学製品の原材料を海外から買い付け、国内メーカーに卸すのが仕事の専門商社。

七階建ての自社ビルで働く社員数は四百名ほどで、この業界では売上第六位くらいの中堅企業だ。

私達の部署はライフサイエンス事業部といって、洗濯洗剤やシャンプー、ボディソープ、芳香剤などの香料や保湿成分を主に取り扱っている。

その中で私は、それらの原料を取引先のメーカーに卸す仕事をしていて、横山くんは仕入担当。

彼はインドや東南アジア、中国への出張が多く、現地で価格交渉やお客さんの求める新しい香料などを見つける仕事をしている。

だから出張が多い分、彼女に寂しいと言われることも少なくないみたい。

そして、そのワードは彼にとってタブーらしく、寂しいと言われたら『じゃあ、別れよう』となるらしい。

言われた彼女にしたら、どうしてそんな極論になるのかと驚き、薄情さに悲しくなることだろう。

「女の敵」と呟くと、桃ちゃんは少し笑った。


「遼介いわく、優しくしてるつもりらしいよ。フリーのときに告られたら相手を好きじゃなくてもOKしてしまうのも、寂しいと言われたら別れるのも、思い遣りだって」


ふーん……ただ色んな女の子と付き合いたいだけかと思っていたけれど、違うのか。

彼には彼なりの理屈があり、交際したり別れたりを繰り返しているみたい。

そんなのは優しさでも思い遣りでもないと私は思うけれど、恋愛経験ゼロだから、私の意見が多数派である自信もない。

しかし、横山くんに対する苦手意識は、彼の恋愛観とは無関係だった。

そんなことより彼と関わると、困った状況に陥るから嫌なのだ。
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