モテ系同期と偽装恋愛!?

抱きしめる彼のシャツからは、甘い香水の香りが微かに漂ってくる。

ポカンと口を開けている私の目の前を、5歳くらいの男の子を連れた母親が通り過ぎようとしていた。

「ママ、あれ見て」と足を止めた男の子の人差し指は、「イエーイ!」とはしゃぐ横山くんに向けられていて……。

「大人なのに、子供みたいだね」

「こら、指差しちゃダメ。世の中には変な大人もいっぱいいるの。ヒロくんは、あんな大人になっちゃダメだよ」

「うん、分かった」

それだけ話すと、親子は私の目の前から去って行った。

変な大人呼ばわりされてる……。

ちょうど音楽と回転が止まって、客の入れ替えの時間がきていた。

なに食わぬ顔して降りてきた横山くんを見て我慢できなくなり、ついに私は吹き出して笑ってしまった。

うちの社の一番人気の男性で、女子社員の憧れの的なのに、変な大人って……。

デートを楽しんでいると思われたくないし、打ち解ける気もさらさらない。笑うのをやめなければと思うのに、どうにも止まらなくなっていた。

どうしよう……腹筋が攣りそう……。

横山くんのシャツを抱えたまま、しゃがみ込んで笑い続ける。

目にはじんわりと涙が滲んでいた。

「そんなにイエーイが面白かった?
紗姫の笑いのツボって、案外浅いところにあるんだな」

おかしいのはそれじゃなく、さっきの親子の会話で……。

説明してあげたいが、笑いが止まらなくて喋れなかった。

楽しんではいけないのに、楽しくて。
笑わない方がいいのに、おかしくて笑いが止まらない。

私の前にしゃがみ込んだ横山くんは「紗姫が笑ってくれるなら、もう一回、ひとりで乗ろうかな」そんなことを言って、嬉しそうな顔で一緒に声を上げて笑ってくれた。

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