親愛なるあなたへ
私はこの歌が好きだ。


先輩の歌うこの歌が。


でも、同時に心に寂しさが宿る。


一体、先輩は誰を想って、誰のためにこの歌詞を書いたのだろう。悲しいような苦しいような。そんな寂しさが宿るのはきっと私の感情のせいだと思う。


今日は先輩と最後に演奏できる卒業ライブ。


私はベース。先輩はギター&ボーカル。ハルはもう一人のギター。葵ちゃんはドラム。私とハルは同学年で、葵ちゃんは一つ下。


私は先輩の顔を見る。いつも通り笑う先輩。もう少しで始まる最後のライブに向けて準備をする先輩は、いつも通り過ぎて逆に心配になってきた。


でも、私は緊張してしまっていた。先輩と演奏できる最後のライブだから。最高のライブにしたかった。


すると、見つめすぎてしまったせいか、先輩が私のほうに振り返った。


心臓が高鳴る。先輩は私のほうを見てニコリと笑った。


そして、言った。



「泣くんじゃねーぞ、後輩。俺の門出を涙で濡らされたら困るからな」



持っていたピックを下に下げる。ジャァーンという音がこだました。


そして、先輩はこちらによって来る。ダメだ、もう泣きそうだ。
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