幻想 少女日和

紅くない林檎の悩みの話

紅い紅い、美味しい林檎のなる木がありました。

白雪姫が好きそうな紅い紅い林檎達。

けれど、その中に、一つだけ、紅くない林檎がありました。

その林檎の色は、この世では、まだ名前の無い色でした。

その林檎を見て、誰もがこう言いました。

「なんて不吉な色だろう」

「あの林檎は、きっと、泥の様な味がするに違い無い」

「気持ちの悪い林檎」

皆、そう言って、その林檎を食べようとしませんでした。

紅く無いから、他とは違っているから、誰も、その林檎を取りません。
だから、その林檎だけが、最後に残りました。



なんて不吉な色だろう。

そうでしょうか?



あの林檎は、きっと、泥の様な味がするに違い無い。

食べた事も無いのに、何故そうだとわかるのでしょう?



気持ちの悪い林檎。

失礼でしょう?


紅い林檎と同じ木になっているのだから、その林檎も美味しいかも知れません。
他とは違う色だからこそ、特別美味しい林檎かも知れません。
とびきり素晴らしい、世界に一つだけの林檎かも知れません。
誰も、そうは思わなかったので、残ったその林檎はそのまま、地面に落ちて、林檎から林檎の木に変わる事になりました。

何年かして、立派に成長した林檎の木。

紅い紅い、美味しい林檎のなる木。

その林檎の木に、一つだけ、紅く無い林檎がありました。

その林檎を見て、誰かがこう言いました。

「なんて、美しい色の林檎かしら!さぞ甘い林檎に違えないわ」



どうして、そう思うのでしょう?

他に、沢山、紅くて美味しそうな林檎があるというのに、何故、そう思うのでしょう?

そう、林檎は思いましたとさ。



おしまい。






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