死神喫茶店
やるべきこと
河田さんと瑠衣のいない解体部屋で、あたしは無言で作業の準備をしていた。


カッパを着てマスクをつけ、使う道具を確認する。


ベッドの上には夢羽が横になっていて、黒く変色した頬に手を当てている。


「少し力を入れるだけで崩れてくるよ」


あたしがそう言うと、夢羽は指先に力を込めた。


指の半分ほどが皮膚に食い込み、赤黒い血液が流れ出す。


「本当に、腐ってるんだね」


自分の指にへばりついた皮膚を見て夢羽が呟く。


少し切ないその声に、あたしは鼻の奥がツンとした。


だけど、今はあたしは解体屋。


そして夢羽は『お客様』だ。


『お客様』を不安にさせる言動はつつしむべきだ。


「大丈夫だよ。みんな死んだから腐敗するんだから」


明るい調子でそう言うと、夢羽は笑って「そうだよね」と、返事をした。


「解体する時は痛みもなにもないの。ただゆっくり眠くなっていくからね」


「そっか……。眠るようにっていうのは、こういう事なんだね」


「そうかもしれないね」


あたしはメスを手に持ち、それを夢羽の足の付け根に押しあてた。


本来ならのこぎりで一気に骨まで切断してしまうのだけれど、夢羽の体をできるだけ綺麗に解体したかったのだ。
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