死神喫茶店
俺はもう死んでいる
解体部屋へ入ると、その綺麗さにあたしは一瞬言葉を失った。


コーヒー豆を入れていた棚も、ベッドの下の解体道具も、すべて綺麗に整理整頓されているのだ。


本来この部屋にあったものはそのままに、普段よりも使いやすく快適になっているのが見ただけでわかった。


「河田さん、これって……」


「『ロマン』の仕事はすべて楓ちゃんに。そして解体の仕事はすべてモコちゃんに任せる」


「なに、言ってるんですか?」


そう聞く声がすでに震えていることに気が付いていた。


嫌な予感で胸が埋め尽くされている。


河田さんはあたしに背中を向けてシャンデリアを見つめてる。


「好きな人を解体した時、俺は数日間泣きどおしだった。辛くて苦しくて切なくて。いっそ死んでやろうかとも考えた」


『死んでやろうかとも考えた』


その言葉に背筋がゾクリを寒くなる。


もしかして河田さんはそのときすでに……?


そう考えて強く首をふって最悪な思考回路をかき消した。


そんなはずはない。


河田さんに死者の腐敗は始まっていない。
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