死神喫茶店
☆☆☆

『ロマン』のお客さんは昨日よりも少し多かった。


昨日は開店から閉店までに3人だったけれど、今日は開店1時間で4人のお客さんがあった。


「このお店もたまには繁盛するんだね」


常連客の70代の男性にそう言われ、あたしは小さく笑った。


「本当に、たまにですけどね」


お客さんはコーヒーだけ飲んで帰る人がほとんどだけれど、常連客の人になると少し高価な軽食を注文してくれたりもする。


『ロマン』の経営を心配してくれているのだろうかと、時々思ってしまう。


「ここのコーヒーはやみつきになるから、常連客が増えてしまって、僕の居場所がなくなってしまうね」


男性の言葉にあたしは頷いた。


実際に、あたしもここのコーヒーの味に惚れ込んでバイトを始めたのだ。


河田さんに何度も豆をどこから買っているのかと聞いた事があるけれど、河田さんは決して教えてくれなかった。


企業秘密なのだそうだ。


常連客さんとの会話を楽しみながらバイトをしていると、あっという間に時間は過ぎていく。


気が付けば夜の7時になっていて、外はもう暗くなり始めている。


夜遅くなるとだんだん客数は減って行く。


あたしは誰もいなくなった店内で、コーヒーを作ってホッと一息ついていた。


『ロマン』では従業員はコーヒー飲み放題なのだ。
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