死神喫茶店
「彼女は若いうちから結婚したんだ。でも、それからすぐに夫からの激しい暴力が始まって、ある日彼女は自分の心臓がすでに停止していることに気が付いたんだ」


「自分が死んでいる事に気が付かなかったんですか?」


「あぁ。日常化した暴力の中じゃ、殴られる事が当たり前になっていく。


彼女からすれば当たり前の日常を繰り返していただけだった。だから、自分でも自分が死んだことに気が付ないまま、ゾンビになってしまったんだ」


そんな事があるのか……。


あたしは改めでシャンデリアを見上げた。


自分が死んだことに気が付かない。


そのまま体は腐敗をはじめ、そこでようやく彼女は自分が死んだことに気が付いたのだろう。


それはとても切なくて、苦しくて、悲しい話だった。


「俺は彼女を解体している間、どうしても涙が止まらなかったよ。


彼女の前では笑っていようと思ったけれど、無理だった。



体を解体してしまえば彼女の夫がしてきた事もすべて闇の中だ。あの男は彼女が死んだ後ものうのうと生き続ける事になる。それが、許せなくて……」



河田さんは消えそうな声でそう言い、拳を握りしめた。


仮に体を解体せずに検視へ回したとしても、彼女はそこでずっと死体のフリをしなければならなかったのだろう。
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