Love Cocktail
まったく未練たらたらな訳ですよねー。

実はこっそりとひっそりと早苗さんにお熱をあげているオーナー。

特に何かするわけではないけれど、彼らが来るたびに、視線は彼女の後を追う。

追うだけで何もしないけど、そんな密やかな一方的な片思いは、きっぱりとしていそうな桐生さんにがっちりガードされますよ~だ。

とりあえず、一条グループだかの御曹司だろうがなんだろうが“店側の人間”にはかわりないんだから、ちょくちょく顔を出すものならば、使えるものは使います。それが吉岡流ですって。

背後の厨房の皆がちょっと遠巻きに見てるけど、振り返ると視線を逸らされる。

こんなのはいつもの事。

前に勤めてたレストラン・バーでも、オーナーだか社長だかにグラスを洗ってもらって首になったら、そんなのはある意味慣れますね。

だいたい人間の価値は、地位やお金じゃないのよ。

確かに、お給料を分配してくれるのは雇い主の人かもしれない。
だけど、お給料は上の人に払ってもらっている訳じゃない。

お客様がサービスを受け、おいしい料理とお酒に払ってくれている。
つまり、お給料はお客様から頂いている訳で……。

オーナーのお給料だって、そのお客様から出てるんでしょうから、少しくらいサービスしたって罰は当たらない訳よ。

これって、ある意味では正論だと思う。

「吉岡……」

呆れ声に振り返った。

「あらオーナー。お早いお戻りですね!」

「渡して来ただけだから……。それより、君のその価値観は素晴らしいと思うが、口に出すのはどうだろうか?」

目を丸くしてから、オーナーをまじまじと眺める。

「え……どこらへんから声に出てましたか?」

「人間の価値は、地位やお金じゃないってところからかな」

それは失言。いや、ある意味でセーフ?

オーナーの片思いを、暴露しない程度の失言率……。

「よかったですね」

「何がだ」

私が暴露しなくて……ですけど。

シェーカーから出来上がったカクテルをグラスに注ぎ、ニッコリオーナーに手渡した。

「フロリダです。早苗さんにどうぞ」

「あ……ああ」

「では、お疲れ様でした」

頭を下げると、オーナーは腕の時計をさりげなく見る。

現在時刻は十九時三十分のはずだ。

「今日は早番か?」

「はい。では失礼します!」
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