Love Cocktail
「……キュウちゃんって呼ぶか、私の紹介と言って貰えれば。一応、予約制らしいから」

名刺を受け取って、頭を下げた。

「ありがとうございますぅ」

「変わった人だけど、いい人ですから」

そう言って、早苗さんは少し面白そうな顔をする。

「でも、何故、急に私にこれを?」

不思議に思って聞いてみると、彼女は片眉を上げてフロリダを飲んだ。

「人の気も知らないで、一人で悦に入ってる人を打ち負かしたくて」

無表情にサラリと言うから、思わず吹きだしてしまった。

それってば、オーナーですか?

「……よく、気づかれましたね。私は解りやすかったでしょうかぁ?」

早苗さんは首を振り、グラスをカウンターに置く。

「隆幸さんはそういうのが得意なんです。私が黙っていてもすぐ察してくれますし」

ぉお~。これは惚気なのかな?

「その隆幸さんが言うには……一条さんははかなり、鈍感らしいですよ?」

かなり鈍感と言うか……私は対象外……と言うか。

しみじみした時、入口にオーナーの姿が見えた。

「あ。いらしたみたいですねぇ」

「そうみたいですね」

貰った名刺をポケットにしまおうとして、ちょっとした動きに靴擦れが悲鳴を上げて顔をしかめる。

「どうかしましたか?」

不思議そうな早苗さんに、慌てて手を振った。

「なんでもないですよぅ」

答えると、視界の隅にウェイターが伝票を持ってくる姿が見えた。

オーダーが入ったみたいなので、早苗さんに挨拶をしてから、ゆっくりと注文票の所まで向かう。

ちらっと見えたのは、桐生氏がいないのをいいことに、早苗さんの隣に座り込むオーナー。
注文の品を作りながら、本当にイライラが頂点にきそう。

オーダーを確認して、カクテルとビールの小瓶をカウンターに置く。

それから、出しっぱなしのジュース類を冷蔵庫にしまおうとして、しゃがみ込み……。

「───っ!!」

悲鳴を飲み込む。

ズルっていった。パンプスの中で何かがズレた気がする!

とりあえずジュースをしまい込み、半泣きになりそうになりながら、表面上は取り繕って立ち上がった。

交代が来るまで、後三十分弱だし。気力で笑顔だ!

「吉岡?」

顔を上げると、カウンター席のオーナーと早苗さん。

かなり訝しい顔をして私を見ていた。
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