Love Cocktail
「うちは自営業で、休みはまとまって取ることもなかったですし、小さな頃は連れて行ってもらっていたかもしれません……が、電車で五時間乗っても北海道なんですよ? 疲れちゃう」

「行けども行けども北海道って訳だ」

赤城君は笑って頷いた。

「その通りです!」

「じゃ、進学でこっちに来た訳なの?」

「いえ。それも違いますぅ」

カクテルを次々に作りながらキッパリと首を振る。

「じゃ、なんでこっちに?」

「武者修行です!」

言った瞬間、赤城君は呆気に取られる顔をした。

「実家のバーを継ぐとか、そういう……?」

「それも違うんです!」

実家なら兄貴が継ぐから私は関係ない。

私は自分で店を出したい。

それ故に資金集めとか、店の雰囲気とか、どんな感じか、とか。

いろんな店を回って見るつもりで、単身こっちにやって来た。

まぁ一つの系列で、ここまでグルグルいろんな店を見られるとは私も思ってみなかったけど。

「吉岡さんて、面白い人なんだね」

しみじみと言われて苦笑する。

「面白いかどうかはぁ……」

「いやいや、面白いよ。いつもブツブツお客さん風刺してるし」

「ふうし?」

擬人化した兎さんと狐さんが頭を過ぎって顔をしかめた。

「ああ、ごめん。いつも面白おかしく批判してるなぁと……」

なんだ、そういう事か。

「風刺って、また古風な言い方ですねぇ」

「すみませんね。オヤジだから仕方がない」

さらっと言って、肩を竦めた赤城君をまじまじと見返した。

「オヤジさん……ですか?」

「うん。二十六だから。吉岡さんにしてみれば、オヤジさんでしょう?」

あれ?

でも前に、厨房のバイト君たちは大学に行ってるって聞いた覚えがあるんだけど。

「大学に行ってるんじゃないでした?」

「大学院の方に行ってるんだよ。もう親のスネも噛れない苦学生。見直した?」

爽やかに言われて吹きだす。

「じゃ、私も一応勉強修行中の苦学生ですね!」

にんまり笑い合ってると、伝票を置く所からウェイターの顔を覗かせた。
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