Love Cocktail
「私、そんなに貧乏じゃありませんから!」

『吉岡……』

「じゃ、お疲れ様です!」

明るく言って、一方的に通信を切った。

そして瞬きを繰り返している早苗さんと、目を丸くしてる佳奈さんを振り返る。

「……今、一条さんと会話していたの?」

恐る恐る聞いてくる早苗さんに頷いた。

「はい。こういうことは男性に聞くのが手っ取り早いです!」

「そうだろうけど……」

困った顔をする早苗さんに、逆に私の方が驚いた。

もしかしたら……桐生氏だけじゃなく早苗さんも、オーナーの気持ちに気づいているのかも知れない。

気づいていながらも、答えられないから何も言わないでいる。

なんとも歯痒くて、なんとも面倒な関係。

だから、私も気づかないフリで、何も知らない顔をする。

「聞いたのは私ですから。お酒か、カフリンクスを最近失くされたそうですので……それはどうか、との事でしたよ!」

早苗さんは何かに思い当たったように小さく声を上げて頷いた。

「そうね」

短く呟いて探しに行く。

それから早苗さんはカフリンクスを、私はこっそりネクタイピンを買って、デパートの前で別れた。

タイピンてけっこうな値段がするんだなぁ。

まぁ、デザイナーズブランドだったしそれは仕方がないのかもしれない。

ほとんど空になった財布を見て、それから手に持った多量の荷物を眺めた。

タクシーは却下。

でも、いっぺんにこんな大荷物をもって電車に乗るのは疲れそう。

ここからならカマクラが近いし、お店のロッカーに少し置いて、それから電車に乗ろうかな。

繁華街の中央。一応、私が基本在籍しているカマクラ一号店。その従業員入口に入ろうとして、いきなり開いたドアに顔面をぶつけた。

一瞬、お星様が見えて消える。

「あ、ごめん」

赤城さんに助け起こされ、ぶつけた鼻をさすった。

「大丈夫?」

「あ。はい。まぁ……」

めっちゃくちゃ痛いですー!

だからって怒ってもしょうがない。これは不可抗力って奴だもん。

「あー……。顔、赤くなっちゃってるよ~?」

「へ、平気ですよ!」

手を振ったところで、あまり聞きたくない声が聞こえた。
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