Love Cocktail
手持ち無沙汰になったのか、彼が急に思い立ったように口を開いた。

「……吉岡の実家は、なんて店なんだ?」

「……え。言うんですか」

それだけは避けたいような気が……。

嫌な顔で躊躇すると、オーナーは不思議そうに首を傾でて、それから少し考えるように眉をひそめる。

「妙な名前なのか?」

「……昔ながらの映画館です」

「は?」

「昔ながらの映画館、と言うんです」

オーナーは少し沈黙してから、今度は顔をしかめた。

「それって……何年か前にテレビでで取材されてなかった?」

あったかも……いいえ、ありました。

「確か、スクリーンで古い映画を流してて、シェーカー振りながら、ある意味フレアバーテンダーの親子……」

思い出すように言いながら、何かを思い出したのかいきなり吹きだした。

「あの人たちが、君の家族か?」

「家族ですとも」

オーナーは爆笑して、テーブルをバンバン叩く。

「いや、なんて言うか。凄く吉岡らしいって、そう言うか……!」

「笑いすぎですから!」

オーナーは咳ばらいして、姿勢を正した。

「いや、カッコイイよ」

「……お世辞は似合いませんよ」

「いや。お兄さんは、映画みたいでかっこよかった」

真面目な顔で言いつつ、だけど、口元がふるふるとそれを裏切っている。

「父君は、何故か異様に早い盆踊りだったけど」

うちの父は、あの踊りをハイスピード盆ダンスと呼びます。

堪えきれなくなったのか、また笑いを収めようと悶絶してるオーナーを横目に見つつ、吹きこぼれそうな鍋の火を弱める。

鍋の蓋を開け、煮え具合を見てから器によそった。

「面白い親子でしょう?」

器を突き付けると、オーナーは涙目になりながら微かに頷く。

「ごめん。面白い」

「だから、言いたく無かったんですよぉ!」

バー関係の人間の間ではけっこう有名らしいし、オーナーが知らないはずがないと思っていたけど……予感は的中でしたね。

「吉岡は……フレアできるの?」

器を受け取りながら、オーナーはおしぼりで涙を拭き……。

「出来ますよ。もともと私が兄貴に教えたんです」

その言葉に、彼は目を丸くした。

「ホントに? やって見せてよ」
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