Love Cocktail
「え。苗字じゃなくて名前ですか?」

『この間、招待状を送るのに聞いて可愛い名前だなと思って』

「やです! あんな恥ずかしい名前は!」

『せっかく親御さんから頂いた名前なのに……』

そうは言いますけど……。

「小さい頃に、どれだけ苦労したか……」

『苦労したの?』

「だって苺ですよ! ストロベリーだの、ベリーベリーだのと!」

吉岡苺ってどんな名前なのよ!

キラキラネームの方がまだマシな気がしてますから!

でも、楽しそうな早苗さんの笑い声が聞こえた。

……うわ。綺麗な声で笑う人だな。

「えと。笑い事じゃないですよ~?」

『や。ごめんなさい』

早苗さんは、咳ばらいひとつで持ち直す。

『でも、いいじゃない。畑つながりで』

「畑つながり?」

思わず壮大な小麦畑を想像してしまって首を振った。たぶんそれは違うでしょ。

『私は早い苗だし。貴女はそのもの果実でしょう?』

早苗さんは、溜め息混じりに呟く。

『苗よ苗! 果実の方が絶対に可愛いですって』

「普通の名前でいいじゃないですか~」

『とにかく、そう呼びますから。じゃ、出席に載せておくからよろしくお願いしますね』

「あ、はい」

『それじゃあ、隆幸さんのお母様が来たから切ります』

「あ、では……」

通話が途切れてスマホを眺める。

あれ? ちょっと待って。

今の何かおかしくなかったかな?

“とにかく、そう呼びますから”って……早苗さん。貴女は思ったより、強引な人だったのですね。

「知らなかった」

スマホをベッドにぽいっと投げてからクスクス笑う。

ま、いいんですけどね。そんなに会う訳じゃないですし。

あの古い映画マニアの、ロマンチック親父を怨んでも戸籍は変えられないし。

招待状をしまってテーブルに置き、ふと首を傾げた。

オーナーがポストの確認をしろって言ったのは、これの為?

早苗さんたちから、招待状が届いてると思っていたから?

改めて封筒を見て、眉を寄せる。

消印は一昨日だ。

つまりオーナーは、昨日のうちに招待状に気付いてた?
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