Love Cocktail
あの時の事を思い出して、少しだけ苦笑する。

あの時貴方は“協力する”と言ったんだっけ?

「オーナーは、私の格好がいけないって……おっしゃいましたよね?」

「ああ。まぁ……せっかく可愛いのに、その魅力を活かさないのはもったいないから」

「その男性の好みを変えるくらいに、可愛くならなきゃ駄目だ。とも、おっしゃいましたよね?」

「そうだな。好みの女性を覆すようにならなければ、相手にしてもらえないだろう?」

最初から私は“相手”には、されていなかったんだろうなぁ。

「オーナー……?」

静かに呟くと、オーナーは優しく微笑んで微かに首を傾げる。

まるで何かを優しく見守るみたいに。

それは確かにいつものオーナーで……でも、私が今は一番望まないオーナーの姿でもある。

「私、可愛くなりましたか?」

「最初から君は可愛い」

「性格が小悪魔でも? 頑固でひねくれてて、そして天然でもですか?」

オーナーの眉が少しだけ顰められる。

「吉岡?」

「オーナー。私は貴方の家族でも親戚でもありません」

「いや……それはそうだ」

躊躇した声にしばらくの間だけ俯いた。そのままの体勢で肩にかかる髪を見る。

ふわふわで、くりくりな天パの髪の毛。性格が小悪魔で、頑固でひねくれてて、そして天然だと言われる私。

それが私だから、私以外の何者でもないから……。

「……どうしたんだ? いつもの君らしくない」

いつもの私? 何を言われたって平気な顔で? 誰にも話しかけられず、平気に仕事をこなすような? いつでも…?

また大きく溜め息をつくと、妙に笑えてきて笑ってしまう。

外見ばかりに気をつけていて、すっかり忘れていたんだよね。

貴方は本当に私を見ていない。それがとてもよく解った。

いつもの私ってオーナーが他の人を見ていても笑っている自分?

天使のように微笑んで、実は全然違う自分?

気兼ねなく、和める、そんな雰囲気の自分?

いつも、一緒にいたいって思っていた。
貴方が苦しんでいるんならそれを和らげたかった。

傍にいて、ずっと、ずっと……。

ただオーナーの近くにいたい。だから、私は笑顔でいられた。

結局、隔たりがあると言うことだ。

私はバーテンダー。オーナーはお客様。
バーテンダーはお客様の苦しみや悲しみ、そして安らぎや楽しみを見てるけど……お客様は、バーテンダーの素顔なんて見ることはない。

バーテンダーは見ているだけ。
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