Love Cocktail
「吉岡さんはあまり知らないかも知れないけど、ホテルの従業員さんもよく飲みに来てたよ」

「そうなんですか?」

「うん。いつだったか……口髭のおっさんに口説かれてたよね?」

言われて、思い返してみる。口髭の……。

「……ダンディそうな、おじ様ですか?」

「うん。確かあの人、1階カフェのメインシェフじゃなかったかな?」

そんな接点があったなんて……!

グラスに出来たカクテルを注ぎながら、目を丸くするしかない。

正直言って、全然、知らなかったですよ。

「しょうがないよ。吉岡さん、ある意味で天然だし」

庄司君の言葉に、グラスをウェイターに渡して首を傾げる。

「ある意味ってなんでしょう? それい私はそんなにお人よしっぽいキャラしてませんからね!」

「天然がお人よしかは知らないけど、自分の世界に、もう没頭って感じ?」

「ぶつぶつ言ってたり?」

中根さんも加わって、浅間さんも笑った。

「もう……! からかわないで下さい!」

赤くなったところで、またオーダーが入った。

中根さんがそれを見て、わざわざ私に回して来る。

「クリスマス・スペシャルは好評だね」

「あ。また苺ちゃんですか?」

と、庄司君。

「苺ちゃんのようだね」

と、浅間さん。

この二人は私のフルネーム知らないけど、知ってる中根さんはニヤニヤ笑い。

「頑張って、苺ちゃん」

とどめを刺されて、頭を抱える。

もうカクテルの名前を呼ばれてるのか、自分が呼ばれてるのか、悩んじゃいますから!

「クリスマス限定カクテル・苺ちゃん、なんて、誰が名前をつけたんですかぁ……!」

仕方なくリキュールと氷を入れながらボヤいてみると、中根さんがちらっと私を見た。

「……オーナーが先週、俺たちの意見ガン無視で決めて行った」

へぇ。オーナーが……。

「……らしい、ネーミングセンスですね」

シェーカーを振って、ぼそぼそと呟く。

「お? じゃあ君なら、なんて名前をつける?」

「え? ベリーベリー?」

思いついたまま口にすると、それはそれは深い溜め息をつかれた。

「それじゃ、どんぐりの背くらべじゃないか」

「まだ横文字なだけ、マシですから!」
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