幻が視る固定未来
当然、この事態に怒りだすのは助歌。
当然、怒られるのは有希乃。

そんな状況、当に理解している。だからこそ帰ってくるなり玄関に待ち構えている助歌に釘を刺す。

「ただいま助歌。言っておくが遅れたことに対して有希乃は何も悪くない。帰り道を変えたらこうなった。それも全てオレの判断だ」
「……」

助歌はオレの言葉を聞くなり返事もせずに有希乃を睨む。きっと確認をとるのだろう。
隣にいる有希乃は相分からずの表情で口だけを動かす。

「遅れたことに関して責任は召使であるなら私にある」
「その通り。分かっているようで結構。なら――」
「――けど、今日の私は召使いではなく有希乃。灼蜘の友達として遊びに行った」

肯定のような否定。けどそれはやっぱり否定である。
ちょっと驚いたがちゃんと否定してくれたのは嬉しい。そうでないと無駄に有希乃が説教を食らうことになるから。
けど分かっている。こんなことで助歌が引き下がらないことを。

「そうですか、分かりました」
「!?」

驚いた。あの助歌が文句も言わずに引いた。そして去っていく。こればっかりはいくらのオレでも予測していない。有希乃もそうらしい。

「なんかあっさりしてるな。なんかいいことでもあったとか」
「多分、逆だと思う」
「逆?」

嫌なことがあったならそれこそこんな事態を許す訳ないが……。
よく分からないまま、オレと有希乃は普段通りに過ごした。後から有希乃が呼ばれることもなく。
――けど、そこに大きな意味があったとはこの時のオレには知る由もなかった。
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