窓ぎわの晴太くん



涼は自己嫌悪に陥っていた。
本当なら涼は電話で里子に帰った方がいいと説得する予定だった。

いや、説得した・・・
でも、一言で一蹴されてしまった。


「帰りません。私は大丈夫ですから」


晴太は、品川にある有名なホテルの前に立っている。
周りを気にしながら煙草をふかし獲物を追うハンターのような恐ろしい目つきをして。

きっと里子はこのいかつい晴太の姿を見ただけでゾッとするだろう。
それで諦めて帰ってくれればいいのだけれど・・・

涼は絶対に晴太にばれない場所に立って様子を見ていた。
でも、まずは里子の動向が気になってしょうがない。

晴太がいるホテルは駅から少し離れている。
それが涼は有り難かった。

きっと今の晴太なら50m離れていても里子を見つけるだろう。
それほどの殺気を涼は晴太に感じていた。

涼はさっきの里子への電話で必ず守ってほしい事を口やかましく伝えておいた。


「大きな声で俺を呼ばない事。
ましてや晴太を見かけても絶対に声をかけない。

この場所に来るまではキョロキョロしないで人波に隠れて移動すること」



あ~、里子はちゃんとその約束を守って無事にここまでたどり着けるだろうか・・・







< 112 / 208 >

この作品をシェア

pagetop