手に入れる女

「これなんかどうでしょう?」
「女性はこういうの好きですね。ペアなら自分で自分にプレゼントになっちゃいますけどね……」

確かに、コーヒー好きな佐藤からのプレゼントなら気が利いている。
唐津焼のペアのマグカップ。夫婦湯のみのように、大きさが少し違っていた。

結婚祝いに送りそうな品だ。

これは……微妙に挑発しているんだろうか? 彼女は一体どういうつもりなんだろうか。
佐藤は、楽しそうに品定めをしている優香の顔の下に隠されている彼女の気持ちを読み取ろうと、彼女をじっと見つめたが、優香は妖しく微笑み返すばかりだ。
 
「二人で飲んでいるところを想像すると、とっても妬けちゃいますが、奥様、喜ぶと思いますよ」

ーー私だったら、絶対ゴメンだけどね、こんなプレゼント。

しかし、優香はやはり無邪気を装った顔で平然と言ってのけた。

佐藤は、このカップで美智子とコーヒーを飲むところを想像してみた。

美智子が淹れてくれるたびに、佐藤はいやでも優香のことを思い出すに違いない。
コーヒーを飲むたびに、優香が「私を忘れないで。私はここにいるのよ」と呼びかけてくるようでぞくっとする。
執拗に佐藤の生活に入り込んで、その存在をアピールしてくる優香。

そこまで考えて、佐藤は優香らしいセレクトだと思った。

ーー結局は妬いてるのか、女は面倒だな。

どんなものを選んでも優香の執念がつきまとうのだと思うと、急に優香の挑発に乗っている自分がばかばかしく感じられた。
何でもいいから早く終わらせるに越したことはない。

「妻は喜んでくれるし、小泉さんは妬いてくれるし、なら悪くないプレゼントですね。これにしますよ」

意外な程あっさりと決めた佐藤は、さっさとレジに持って行き、包んでもらっていた。

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