手に入れる女
テーブルの上に載せた携帯電話は、チャームはおろかカバーも何もついていない丸裸のそっけないケータイだった。

どんな人なんだろうかと、佐藤はあれこれ想像を巡らせる。
そのままコーヒーを飲んでいると果たしてすぐにその女が現れた。テーブルの上にあるケータイに気づくと、佐藤の方をまっすぐ見つめて、声をかけてきた。

パンツスーツをすっきりと着こなした、アラサーの女である。

「あの、小泉と申しますが、先ほど電話に出ていただいた佐藤さんですか?」

きびきびとした動作に反して、柔らかな落ち着いた声であった。佐藤が、テーブルに載ったケータイを差し出しながら、向かいの席を勧めると、小泉は明らかにほっとした様子で席に座った。

「拾って頂いて助かりました。ありがとうございました」
「席についたとたんに足元で鳴ったのですごくいいタイミングでした。ここの、窓とテーブルの脚の脇にケータイが滑り込んでいたんですよ」

佐藤が拾った場所を指差しながら説明すると、小泉は、少し恐縮した様子で今朝の話をし始めた。

「どこでなくしたか分からなかったので、もしかして誰かが出てくれるかもしれない、と祈るような気持ちでかけたんです。
佐藤さんが電話に出て下さって本当に助かりました。今朝、ここでコーヒーを飲んだので、その時におとしたんですね。会社に行ったらケータイがない事に気づいてちょっとパニックになっていました」

小泉は、それだけ一気に話をすると、急にバッグの中から名刺を取り出した。
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