その男、猛獣につき

金曜日にせっかくリネン交換をして綺麗にした布団は、押し入れに入れたままADL室の畳にゴロンと横になって、ようやく私は明け方に浅い眠りに入った。

 

一晩中、大きな音を立てていた風雨もどうにか収まり、静かな朝を迎えようとしていた頃、小さな物音が襖の向こうでしていたかと思うと、リハビリ室のスライドドアを開く音がする。

 

その後、さっきまで聞こえていた足音も、物音も何も聞こえなくなって、先生が帰っていったことに気付く。

 

ようやく止まっていたはずの涙がまた数粒流れて出た。

 

 

先生への気持ち、さようなら。

もうこれ以上、先生を困らせるわけにはいかない。

 

一晩かかって、ようやく自分を納得させる言葉を見つけた私は、そう自分に言い聞かせた。

 

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