MOON LIGHT
彼女は床に両手をつくと、低頭した。
額を床に擦り付けるほど付け、少女は続ける。


「私は、とある者に追われております。
この寒空の下……食料もなく、幾日歩き続けたか分かりません。
このままでは死んでしまいます」


ですから、と少女は呟いた。


「―――族王陛下の御住まいとは重々承知致しておりますが、
どうか慈悲の御心で、私を助けては下さいませんでしょうか」


そう言い終わった瞬間。


ぐらり、と少女の身体が傾いた。


「……っ」


セルトは反射的に、女の身体を受け止めようと腕を伸ばした。
ぎりぎりで彼女を抱え、肩にもたれさせる。


「―――ヒーレン、侍医を呼べ」


「は?」


ぽかんとしているヒーレンに、セルトが告げる。


「―――……熱がある。それも高熱だ」


女を持ち上げた瞬間、いや、彼女に触れた瞬間、それを悟った。
そして抱き上げた瞬間、異常なまでに軽いことにも気付いた。


恐らく、女の言ったことは嘘ではない。



「急げ。……命に関わるかもしれんぞ」


「―――……はっ」


ヒーレンは臣下らしく答え、一礼すると、現場を離れてゆく。

それを唖然と見ていた侍従職の男が、声を上げた。


「……陛下!!この女は、警備の者たちを倒したほどの力を持っております。
いくら倒れたからと言って助けるなど……!!」


「なれば、お前はこの女を見捨てろというのか?」


セルトの冷ややかな声に、男が押し黙る。


「この女は、警備員を“倒した”だけで殺してはいない。
むしろ、女に倒された警備員の方がおかしいではないか」


違うのか、と問われ、男は黙ったまま後退した。
それを認め、セルトは彼から興味を失った。
そのまま歩き出す。

「陛下、どちらへ!?」


侍従の言葉に、セルトは振り返らずに答えた。


「―――医務室へ」
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