MOON LIGHT

そしてもう一人、二人の向かい側から走ってくるのは―――。


「おい、セルト、ヒーレン!!」


大声叫びながら、何者かが駆けて来る。
襟足辺りの長さの黒髪、それと同じ色の瞳は、
炎一族の中では珍しいものだ。

遠くから駆けて来るが、小柄なのが顕著だ。
しかしそれもセルトやヒーレンと比べるからで、
一般的な標準の高さである。


黒髪の人物はセルトとヒーレンの前で止まると、
両膝に両手を置いて膝を軽くかがめると、
はぁはぁと荒い息を繰り返した。


「アダルス」


セルトにアダルスと呼ばれた男は、
顔を上げた。


彼もまた――
セルトが心を許した友人なのである。


「せ、セルト……、
ちょっと一緒に来てくれ」


「は?お前、軍の後片付けは……」


アダルス、ヒーレンの二人は、
近衛軍の軍人であると共に、
族王であるセルトの侍従も勤めていた。


これは言うまでもなく、珍しいことである。



アダルスは荒い息を押さえつけながら、
友に叫んだ。


「ふ、不審者だ!!女が……女が城に」


「何だと」



セルトは怪訝そうに形の良い眉の片方を吊り上げた。
そんなこと、あるはずがない。


此処は、炎一族の本拠地であり、
天下の炎一族族王家の住居である。


当然、何重にも侵入者防止の魔法が掛けられてある。
だのに。


「本当だ、それも、正面玄関から……」


三人は走り出した。
< 7 / 10 >

この作品をシェア

pagetop