二人の穏やかな日常

財布はやっぱり、鞄の一番奥に閉まってあった。


「前原さん!」
『うふふ』
「大恥かいたじゃないですか!」
『あー、この時間駅って人多いですもんね』
「まったく……ところであのブラジャー前原さんのですか」
『いえ友達が彼氏からプレゼントに貰ったものなんですけど、こんな下心見え見えのものいるか!って怒ってたので、ちょうどイタズラに使えるなーと』
「……前原さんのでもないブラジャーで恥かいて僕本当に救いようないじゃないですか」


まだあれが前原さんのものだというなら、少しは嬉しかった。かもしれないのに。


『斎藤さん』
「もー、なんですか」
『お仕事、頑張ってくださいね』
「……」


だから。
そんなこと言われたら許してしまう。
分かってやってるんだろうか。


「……はい」


やっぱり俺は、前原さんを怒れなくて。
毎度毎度、笑って許してしまう。
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