その時にはもう遅かった
「もう…やめて欲しい…。」

本当に信じられない。

夏目くんの行動もだけどその気持ちもイマイチ信じきれないのだ。

だって未だに夏目くんは私の連絡先を聞いてこない。

つまり完全に直接的なアプローチしかしてこないということ。

おかげで姿を見かけるだけで身構えてしまったり、声を聞くだけで自然と視線を送ってしまう。

次は何をしてくるのだろう。

そんな緊張感と期待が入り交じった実に奇妙な感覚を持ってしまったのだ。

これってなんかもう、待っている感が否めない。

だって夏目くんは気付く。

ネイルを変えれば

「綺麗な爪ですね。上品な印象に変わる。」

香水を変えれば

「前の香りも良かったけど、今日の香りも似合ってます。」

少し疲れたと感じた時は

「頑張るのもいいけど休息も忘れないように。」

こうして事あるごとに絶妙なタイミングと言い回しで私の中の繊細な部分をくすぐってくるのだ。

それも微かに触れる程度に。

押しているようでそうで無い、余白をくれる包み方は何ともくすぐったくて恥ずかしいことを気付いているのかしら。

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