その時にはもう遅かった
「助かりました。これで一度試してみます。」

「あの、もしもの為に私の連絡先教えましょうか?」

そう口にした時には何も思わなかったくせに、目を丸くしている夏目くんの表情を見て初めて自分の発言の恐ろしさに気が付いた。

なに自分から踏み込んで行っているんだ私は!

少しずつ引きつっていく表情が可笑しかったのか夏目くんは目を細めて声を低くした。

「私的に連絡をしていいのなら喜んで。」

怪しげな笑みはまるで罠にかかった獲物を見つめているかのよう。

言葉が出てこない私は目を泳がせて必死に次の一手を探す。

「でもそれじゃ落ちないでしょう、神崎さんは。」

その言葉は逃げていた私の視線を呼び戻すのに最適なものだった。

「直接口説き落とすのが一番早い。仕掛けた罠は…どこにあるか分からないよ?」

「…わっ?」

罠!?

あまりの衝撃発言に目も口も丸くしている私を置いて夏目さんは立ち上がった。

「じゃあ、ありがとうございました。」

何事も無かったかのように立ち振る舞うスマートさは私には一生縁が無いものだと思う。

「夏目くん…。」

消えそうな声で呼んだ音に一歩踏み出していた夏目くんは振り返ってくれた。



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