ありったけの「好き」を、君に。
***

【相模ひとかside】

「ふー、部活終わったー…」



私が所属する吹奏楽部の練習が終わる頃には、日が暮れて月が昇っていた。



どの部活ももうとっくに練習を切り上げて帰っているはずだ。



早く帰りたい一心で自転車にまたがったそのとき。



「うぃー、お疲れぃ!」



体育館の方から、運動部の男子っぽい声が聞こえた。






ーーまだ練習やってる部、あったんだ。



そう言えば、練習しているときに体育館に電気がついているのが見えたような。



「ねー、あれ何部かなぁ」



隣で同じように自転車にまたがっているましろが訊いてくる。



「んー、何部だろう……あ、いま『凛』と『真斗』って言った」



体育館から出てきた男子の集団から、名前を呼ぶ声が聞こえたのだ。



『凛』と『真斗』は2年男子バスケ部員の名前だ。








ーーーーということは。



「男子バスケだ!」



ましろが指をさして叫んだ。



「こら、ましろ。指ささない!」



私がましろの指を制して言う。



「はーい。でもよかったね、ひいちゃん」



ましろが手を戻してくるりと私の方に向き直った。



ニヤニヤしている。



「な…!べ、つに、いい事なんて何もないよ。ほら、帰ろう?」



何動揺してるんだ、私。



けれどバスケ部のかたまりが近づいてきて、不意にあいつと目が合ってしまった。








ーーーー加賀。



どんどん耳が熱くなるのを感じて、とっさに目を逸らした。



何ドキドキしてるんだ、私。



目が合ったとき、加賀の目に吸い込まれそうだった。








とくとく、とくとく。

とくとく、とくとく。









斜め前から私を呼ぶましろの声が聞こえたけれど、私は上の空だった。

















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