不器用な愛を刻む




そう願う椿が
ふと目を覚ました時は




自分は店にある机に伏して寝ていて

もうすでに朝になっていた。




町からは人で賑わう声が聞こえる。






(…善様……帰られなかった…。)






今まで一緒に働いてきて
1日店を空けることなど無かったため

椿は余計に不安になった。





…相手を張り込んでいるのか
もしくはまだ探しているのか。




それならまだ良いのだが





もし…どこかで倒れていたら。


怪我をして動けないでいたりしたら。






そんなことも心を過ぎり

椿は苦しくなって
自分の胸元を掴む。






(……大丈夫、ですよね?)






善様は帰ってくる、必ず。




そう言いきかせて
椿は店の上にある、生活する家に

一旦帰ってお風呂に入ることにした。





…今日は買い物に行って
善様の帰りをまた待とう。







『…お前…今夜と明日の夜は
絶対にこの部屋から出るんじゃねェぞ。』







最後に聞いた善の言葉を思い出して

椿はきっと
遅くても今日の夜か明日までには
彼は戻ってくる…

そう思っていた。




彼は嘘をつかない。





だからきっと…帰ってくる。




椿は不安でざわつく胸に
そう言いきかせ続けながら

支度を始めた。







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