不器用な愛を刻む





---少し経ってから

上の階から椿が降りてくる。





いつも来ているような
普段着の着物ではなく、

少し綺麗めの
お出かけ用の着物を着ていた。






滅多に見ないそんな椿の姿を見て
少々驚いていた善だったが、



目を丸くしたのは一瞬で

すぐにいつもの顔に戻り
フー…と、煙管を吸って息を吐く。









「………行くか。」

「は、はいっ。」









嬉しい反面

2人で出掛けることなど珍しい椿は

緊張しながら
少々遠慮がちに 善の後ろをついて行く。







(善様と2人で歩くなんて…何か少し、変な感じする……。)








もともと

あまり昼間や朝から外を出歩くことが少ない善とは

あの店の中でしか
ほとんど過ごしたことがない。





そのため椿は
少し違和感を感じていた。









「…何か食いてェモンがあれば言え。
連れて行く。」

「え……そう、ですね…。」







後ろをチラッと振り返って
善が椿にそう告げる。



椿はそう言われ
少し考え込むものの

あんまりすぐには思い浮かばず、
善に小さい声で告げる。








「えっと…帰りで良いんですけど、
お団子…が食べたい、です。」

「……団子か。」






分かった。




善は椿の声にそう言うと

また 前を向いて歩き出す。







(…ふふ、何だか 新婚の夫婦みたいで嬉しい。)







こんなことを本人に聞かれたら
きっと気分を害するだろうと思いながらも


椿は嬉しい気持ちを止められず

口元に笑みを浮かべる。







「………。」







すると同時に善が少し立ち止まり、

椿は慌てて笑みを仕舞って
彼の姿を見上げる。







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