不器用な愛を刻む
(……"鬼"を愛す女…か。)
部屋を出た男は
椿のことをふと考えた。
数年前
改革が起こって間もなくの
まだ役人の職務への変更が起きる前…
名の通った役人…警察の中でも
格別の実力を誇った男がいた。
------【悪魔も恐れる鬼】
その名を、北臍 善(ほくざいの ぜん)。
優秀な武士団を結成していた
以前の警察の中でも
彼に勝る実力者は
彼以外に
今も昔も存在しない と言われた男。
しかし
改革に伴って
力を失った警察部隊から抜けた。
──それから何をしているのかと思えば
(まさか、役人の長から直々に
罪人斬首の命を受けていたとは---。)
そして
あの男はついに"こちら"にやってきた。
『…ハッ…何だァ?
……どうやら俺は
ハッタリかまされたみてェだな…?』
『っ、誰だ貴様!
取り囲め!決して帰すな!』
『…ったく…血の気の多い野郎共が…。』
俺の命でその男を取り囲めば
男はそう言って、こちらに目を向けた。
『お前らはここで…
────俺に殺されて死ね。』
その時こ奴の目を見て
そこで初めて
俺はこの男があの『善』だと分かった。