不器用な愛を刻む


















「───。」















──本当に、一瞬。









聞こえた銃声の次の瞬間には


喜一さんが敵を撃っていて。








目の前のあの男は


ついにトドメを刺され、後ろへと倒れた。









それを確認してから








喜一さんが慌てて

こちらへと向かってくる。










焦った表情で

こちらに何かを叫んでいるけれど





何を言っているのか、聞こえない。











(………。)











伝わってくる、熱い液体。






生暖かくて




それは静かに

私の着物に染み込んでいく。













──私の体にのしかかった









この重みは───何?




















「………椿。」














耳元で、そう私の名前を呼ぶ声がする。









返事をしたいのに 声が出なくて。








その代わりに

どんどん涙が溢れてきて。










拭えもしないその涙を流しながら






私はただ呆然と

その重みに手を回す。















「…フッ……無事…みてェだなァ…?」











弱々しく笑みをこぼして





私の体にもたれかかる彼の背中に

腕を回せば







ドクドクと溢れ出すソレに



手が濡れるのがわかる。








「…善、様……?」





















────嗚呼 誰か








これは悪夢だと、誰か言って。























「善!!
っ…、救護を呼んでくる!!
しっかりしろ善…!!」










必死な様子で
彼に声をかけた喜一さん。

そして急いで救護を呼びに行ったけれど







その間


彼の呼吸は段々弱々しくなるだけで──。














「…善、様……
しっかり、してください……!」

「………大丈夫だ椿……。
………何ともねェよ……。」










平気で嘘をつく彼に




さらに涙が溢れてくる。











私を安心させる嘘なんて



つかなくていい───。









こんな状況なのに

そんな風に私に言ってくる彼は




どこまで私を

守るつもりなんだろう──。













「…………椿…。」

「…ぅ………っ……何、ですか…?」












耳元で聞こえる

小さな弱々しい声に




そう返事をすれば








彼はゆっくりと手を上げて






震えるその手を……私の頬に添えた。






< 87 / 180 >

この作品をシェア

pagetop