天使の梯子

そして手術の日の朝、私は入院の準備をして家を出た。


彩乃とは病院で直接待ち合わせだ。


今日でお腹の子とお別れだと思うと、悲しくて涙が出てくる。


出血は一度もしなかった。それが私のお腹に必死にしがみついていてくれている証ような気がした。


それをこらえるように空を見上げて、私は息を呑んだ。


雲の切れ間から、射す光。


旧約聖書に出てくる、ヤコブは、この光に上り下りする天使を見たという。


『天使の梯子』と呼ばれる、自然現象。


美しい空に、言葉も出なくて、私はひとりで涙を流しながらその空を眺めていた。


大丈夫って、お腹の子に励まされている気がして、涙を拭って私は前を向いた。


大切な人も、赤ちゃんも失ってしまった。これも私が自分で選んだことだ。


だから、もう……前に進むしかない。


ひとりでも生きていけるように、強くなるんだ。


私はその美しいその空を見上げて、そう誓った。



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